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素晴らしき特撮野郎

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日本が誇る特撮について、あれこれと感想を述べるブログです

仰望――怪獣映画の視点について

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暴れまわる大怪獣。街を壊し、戦闘機を叩き落とし、地面をえぐる方向を響かせながら、進軍する――そういったシーンを撮るとき、決まって怪獣は、下から仰ぎ見るような角度で撮られている。


これは逃げ回る人間の視点にカメラがあるということで、大怪獣映画にとどまらず、あらゆるパニック映画にお決まりの撮り方。大きな建造物などがある場合でもそうなんだけど、その大きさ、迫力を強調させるために、なくてはならない角度といえる。


で、この仰望の視点なんだけど、個人的には、こいつが上手く撮れている映画って、やっぱり名作が多いような気がする。

日本の特撮に限った話じゃない。俺が洋画で一番好きなのは、1993年の『ジュラシック・パーク』。主人公のグラント博士ら一行が、初めて恐竜と遭遇するときのカメラワークは、神がかっていた。グラント博士たちの歩みに合わせてカメラを移動させ、巨大なブラキオサウルスが、しずしずと歩く様子を、下から舐め仰ぐようにして撮っている。それだけで、いかに巨大な存在であるかがよくわかる。あのシーンは、ほんとうに感動した。


『ジュラシック・パーク』のそのシーンの場合は、恐竜と我々観客のファースト・コンタクトということもあって、胸を熱くさせるような、感動的なシーンとして、描かれている。これが『ゴジラ』など大怪獣映画の場合は、事情が少し異なる。相手は、街を破壊する恐るべき敵なわけであって、そこに必要なのは感動ではなく、恐怖と緊迫感。つまり、いかり観客をハラハラドキドキさせることができるかって部分が大事なわけであって、この仰望の視点は、スリルと実感を味わわせるには欠かせない要素の一つということになる。

この仰望の視点によって、観客が得るものは大きい。その最たるものは、怪獣を仰ぎ見る視点によって、自分自身が、怪獣から逃げ回る、作中人物の一人になっているかのような、そんな錯覚を抱くということ。これを、もっとも巧みに利用しているのは、やはりアメリカ映画の『クローバーフィールド』。謎の巨大生物から逃げ回る人々の恐怖を描いたパニック映画として、非常にすぐれた作品です。

もちろん日本の特撮映画も負けてはいない。1954年の『ゴジラ』の時からすでに、この仰望の視点はあった。そもそも、山の後ろからゴジラが顔をのぞかせるシーンからして、この視点が使われていた。円谷英二の腕が光っていたのは、やはり東京のシーン。電車をかみ砕くゴジラ、国会議事堂に手を駆けるゴジラ。炎とともに、街を蹂躙するゴジラ。処々に仰望のシーンが使われていて、それが緊張をあおる。ゴジラから必死になって逃げている人々と、まったく同じ視点に立つことで、我々も同じ恐怖を実感することができるよう、図られている。
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平成になってCGが増えたこともあり、様々な視点から、大怪獣映画は撮られるようになった。怪獣そのものを見下ろす俯瞰視点などは、映像技術の発達によって、スケールが大きい画も作ることができるようになったからこそ、用いられるようになったもの。でもその一方で、この仰望の視点も、やはり忘れがたい印象を残している。『ゴジラXメガギラス G消滅作戦』『ゴジラXメカゴジラ』の冒頭は、この演出が光っていた。手塚監督は、後半の展開で若干中弛みするものの、前半の掴みにおいて、右に出る者はいないほど演出が巧み。特に、『G消滅作戦』の、大阪攻防戦は手に汗握りました。観客は特陸自の視点で、スクリーンを観ている。彼らと一緒に、ゴジラの先を進み、待ち構える気分になっている。緊張と興奮が極度に達した時に、街からぬっと姿を現すゴジラが、ここではメッチャ怖い。俺はこの冒頭部分が好きで、こいつが見たいがために、G消滅作戦を何度も見返している。


「怪獣映画」を改めて考え直すきっかけを与えてくれた、平成ガメラ三部作。監督した金子監督は、『大怪獣総攻撃』でゴジラを担当したけれど、ガメラとゴジラ――日本が誇る大怪獣の二柱のどちらにおいても、優れた演出を見せてくれた。金子監督の作る怪獣は、怖いところは容赦なく怖く、カッコ良いところは惜しむなくカッコ良い点が、何よりも魅力。特にそれは、ガメラの演出で光っていた。三作目の『イリス覚醒』のクライマックスは、JR京都駅。そこでの最終決戦は、長く特撮史に刻まれるべき素晴らしさ。とにかくダイナミックで、息をするのも忘れて観てしまう。崩れ落ちる駅の中で、ぶつかり合う二つの巨体、それを見上げながら佇む人間の気持ちになって、ついつい、胸を騒がせてしまう。

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怪獣というのは、本来は存在しないはずのキャラクター。それをいかに現実の光景に溶け込ませるかというところに、今まで、たくさんの工夫が試みられてきた。ただ怪獣が暴れまわっているところを、遠くから眺めていたって、何の面白味もない。自分もその現場にいて、落ちてくるがれきをよけて、必死に逃げ回るくらいの、白色と緊迫感がなければ、観ている側としては退屈してしまう。そういった点で、仰望の視点というのは、凄い大切。個人的には、『クローバーフィールド』のように、一から十まですべて、怪獣が登場してくる場面は、仰望の視点で撮る、日本の怪獣映画を見てみたい。ゴジラとかも一度、これでやってみたら良いんだよ。怪獣同士の戦いがあると、どうしても別の視点も必要になってくるだろうから、初代や84ゴジみたいに、ゴジラが単体で出てくるやつで。で、ゴジラのキャラクターも、愛嬌とかそんなん全部部取っ払って、初代みたく、メチャメチャ怖い奴にすればよい。純粋な怪獣被害を、作中の登場人物の視点になって、観ていく映画――怪獣映画大国である日本で、一度、やってみてほしい試みではあります。







でも、俺もまだまだ勉強不足だから、もしかしたらもう、あるのかもしれないね。心当たりのある人は、教えてください。
by anguirus | 2012-06-11 00:09 | 所感

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